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証券経済研究 第94号(2016年6月)
証券市場,投資家行動,そして効用価値論—ジェヴォンズ自由資本概念の含意—
野下保利(国士舘大学教授)
〔要 旨〕
近年,グローバルに資産選択をおこなう証券投資家が証券市場ばかりでなく,国際経済においても重要性を増してきた。こうした証券投資家の影響を分析する際に注目すべきなのは,近年急速に影響力を増してきた高頻度取引(HFT)を用いる投資家の台頭である。HFT投資家の特徴は,様々な証券の持ち高の組成・解消を日中を通じて頻繁に行い,価格のわずかな乖離を利益にかえることにある。HFT投資家の取引手法は,取引のスピードアップにとどまらず,今や,証券取引の規範となって証券市場全体のパラダイムを転換しつつあるといわれる。
多くの現代資本市場研究で取り上げられてきた投資家,すなわち,低頻度取引(LFT)投資家は,未来に向かって線形的に進行する絶対時間を用いて,資産価値を評価し投資決定を行う。他方,HFT投資家は,主体的に設定した取引システムの内部クロックに従い資産価値を評価し取引を決定する。HFT投資家の台頭は,絶対的時間を仮定して構築されてきた投資家理論に根本的疑問を投げかけることになる。絶対時間の束縛から離れ主体的に取引時間を決める投資家の台頭は,証券市場,ひいては経済全体にどのような影響を与えるのか。こうした問題を検討するためには,投資家が資産価値を評価する座標系(レファレンス・フレーム),その座標系を決める投資家運動,そして,投資家が運動する場である証券市場の幾何学構造(証券市場制度)の間の関連を再吟味することを要請する。
ジェヴォンズは,主著『経済学の理論』において,財や資本の価値評価について主観的価値論を提起するとともに,資本が時間と密接に関係することを強調し,自由資本という独創的な資本概念を提起した。証券投資家という新たな主体の台頭を独自の価値概念や資本概念によって分析しようとしたジェヴォンズの方法は,その後,ベーム−バベルクの資本利子論,ヴィクセルの自然利子率概念,そしてフィッシャーの時間選好利子論を介して,現代経済学及び現代資本市場論に継承されることになる。資産価値評価,投資家行動,そして証券市場制度の相互関連を分析するために,ジェヴォンズの投資家理論にまで遡って検討する必要がある。
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