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証券経済研究 第94号(2016年6月)
長期保有株主に対する優遇策
福本葵(帝塚山大学教授・当研究所客員研究員)
〔要 旨〕
金融危機後,ショート・ターミズムに対する批判から,中長期投資を促す施策の導入を検討する傾向が見られる。その一つに,株式を中長期に保有する株主に対する優遇策の導入が挙げられている。2012年7月,ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のジョン・ケイ教授は,イギリスの株式市場を分析したレポートをまとめた。レポートでは,ショート・ターミズムの問題点を指摘した。また,ヨーロッパでは,欧州法務委員会において,株主権利指令の改正案に,中長期株主に対する優遇策の採用を2年以内に各国に義務付ける3ea条が,10対13の僅差で導入された。優遇策には,複数議決権株式や配当優遇政策,ロイヤルティ株式,ロイヤルティ配当などが挙げられていた。
日本においても,2015年7月24日,トヨタ自動車が第1回AA型種類株式の発行を行った。AA型種類株式は,中長期的株主層の形成,研究開発投資資金が業績に寄与する期間と投資期間を合わせた投資機会の提供を目的とするものであるとしている。さらに,フランスやイタリアでは,2年以上を保有する長期株主に対し,2倍の議決権を付与する法律が成立するなど,中長期保有の株主に対する優遇策の例は,多く見られるようになっている。本稿では,金融危機後の各国の長期保有株主優遇策を概観し,それらについて,若干の考察を行ったものである。
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