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証券経済研究 第98号(2017年6月)
EUの銀行同盟における欧州預金保険制度の動向
—2015年の欧州委員会によるEDIS規則案とドイツ銀行業界の反応—
黒川洋行(関東学院大学経済学部教授)
〔要 旨〕
2012年欧州理事会で提唱された銀行同盟(バンキング・ユニオン)のうち,これまでに第1の柱である銀行監督システムの一元化と第2の柱である銀行破綻処理システムは,すでに実施体制に移行している。第3の柱である欧州預金保険の統合に関しては,欧州委員会が2015年11月に欧州預金保険スキーム(EDIS)に関する規則案1)を提示した。その特徴は,各国の国内的預金保険スキーム(DGS)の資金的手段を2024年までに3段階にわけて共同体化し,最終段階では欧州全体の預金保護基金に置き換えるというものである。
しかし,この委員会提案については,ドイツの銀行業界および連邦政府から強い反対意見が表明されている。
その後,2016年11月に,欧州議会は,2015年の委員会提案を修正する報告案2)を作成した。その特徴は,加盟各国の国内的預金保険スキームを2024年以後にも存続させる点にある。同案では,自国内で発生した預金保護の事態には,まず自国のDGSが用いられるという自己責任原則による変更が施されている。
ドイツ側の銀行グループは,依然として反対姿勢をとっているが,その背景には,歴史的に独自に形成されたドイツの銀行システムと,「保証責任連合」等の独自の制度保証システムの存在があると見られる。ドイツ側が政治的態度を軟化させようとする動機の変化は当面みられない。総じて,EDISの実現については相当な困難が予想されるが,なんらかの妥協案が模索される可能性もある。
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